シカゴらしさについて

はじめまして、1年生のAです。学校がはじまって4ヶ月が経ち、冬学期がはじまりました。どうぞよろしくお願いいたします。

今回は、ビジットでよくいただく「シカゴの特色は何か?」という質問に対する私の考えをご紹介したいと思います。シカゴは、他の多くのMBAプログラムと同じような良さをもちろん持っています。例えば、レベルの高い教授陣、グループワークやクラブ活動で多くの学生と議論し何かをする機会、リーダーシップを発揮するチャンス、著名なゲストスピーカーの講演、日々開催されるパーティーやイベント、など。しかしその中でも、特に「シカゴらしいなあ」と私が思っている点は、次の2点です。

(1)厳格なディシプリンに基づいた教育

シカゴの第一の特徴は、「厳格なディシプリンに基づいた教育(”Our rigorous, discipline-based approach to business education”)」だと思います。ディシプリンという言葉が訳しにくいのですが、「アカデミックな研究に基づいた理論やフレームワークを理解し、それらの限界も知った上で、ファクトに基づいて議論をするのが大好き」というイメージです。

例えば、 ミクロ経済学の授業で、ある教授が「実際のケースをもっと取り上げて欲しい」という学生からの要望に対して次のように答えていました。

「ここは(授業が100%ケースで有名な)ハーバードではありません。いくらケースに取り組んでも、ケースと同じ事例に現実でぶつかることはありません。Boothは、”General Idea”の教育に重きを置いています。なぜならば、基本的な考え方を知っていればどのような問題に対しても応用できると考えているからです。それが、BoothではMicroeconomicsが必修になっている理由です。Microeconomicsの基本的な考え方は、MBAの他の授業を学ぶ上だけではなく、実社会に戻ってからも必ず役に立ちます」

この授業は基礎のミクロ経済学だったので、本当に教授が授業で説明していたグラフや関数が実社会で直接役に立つかは別として(笑)、この説明は大学が考えているシカゴらしさを明快に表していると思います(もちろんケースにはケースの良さがあり、シカゴにもケース中心の授業は多くあります、念のため)。

私はバックグラウンドが金融のため、このシカゴらしさに対する共感が人一倍強いのかもしれません。金融では、日々の仕事はルーチンでもある程度できますが、本当に難しい問題や経験のない問題に対応する時は、どれだけ金融の本質を理解しており、理論から紐解いて自分の頭で考えることがいるかで、対応の深さとスピードが決まってくると思っています。学校が提供してくれる様々なアイディアを卒業後も使えるようにしっかりと自分のモノにするにはもちろん努力が必要ですが、シカゴの優秀な教授陣はふんだんに学ぶ機会を用意してくれます。

シカゴらしさが出ているソフトスキルの授業の例として、先学期はManaging in Organizationsという授業で、人が環境からどのような影響を受けるのかを学びました。授業の進め方は、ケースあり、クラスメイトとの模擬交渉あり、と工夫がこらされているのですが、授業の主眼は社会心理学の知見に基づき人間が陥りやすいバイアスやクセを学び、それを自分の経験に当てはめるとどのようインプリケーションがあるかひたすら考える、というものです。「職場で」人はどう振る舞うか、ではなく、「そもそも」人はどんな落とし穴にはまりやすいか、というところから始まるので、幼児を対象に行われた心理実験のビデオを見たりもして、社会心理学のコンセプトを理解していきます。最初は半信半疑でしたが、例えば授業を通じて”Confirmation Bias”という概念を理解した結果、「あ、自分は今このバイアスに陥っているかも」と自分を少し客観的に見られるようになり、終わってみると今後に役立つ授業だったと思います。この授業のアプローチは、社会心理学の”General Idea”を徹底的に学んで仕事に生かしましょうという発想で、シカゴらしいと言えるかもしれません。

(2)柔軟なカリキュラムと、それを生かす自主性

シカゴでは、簡単に言うとほとんどの科目において、どの教授の、どのレベルのコースを、いつ履修するか、は学生に委ねられています。 実際に学校が始まるまではその重要性はよくわからなかったのですが、始まってみるとこの柔軟性は2年間の時間の使い方にかなりインパクトがあると思います。

まず、興味がはっきりしている人は、その興味対象について突っ込んだ授業を初学期から全開で履修することができます。例えば、金融のバックグラウンドが十分にあって夏のインターンはヘッジファンドでやりたい、という人であれば、初学期からファイナンスの上級コースを複数履修することも(やろうと思えば)可能です。一般にMBAでははじめの半年から一年は基礎的な必修コースに充てられることも多いと思いますが、そうではなく特定の分野に2年間きっちりと時間を注ぎ込めるのはシカゴならではの荒技だと思います。そこまででなくても、マーケティング、コンサルティングなど、自分の興味関心に合わせて学生は初学期から授業を組み立てていきます 。

また、興味の絞り込みがまだ十分に出来ていない場合は、チャレンジしたい授業を早くとって試してみるということもできます。私の場合は金融だけでなく組織論にも興味があったので、Managing in Organizationsを前述のとおり初学期に履修してみました。結果として、このエリアは自分が突っ込んで行きたい分野とは少し違うかなということがわかり、MBAの時間の使い方を再考する良い機会となりました。

最後に、時間配分が柔軟にできるのも大きな特徴です。私の友人は、今学期は火曜日と水曜日にしか授業を入れなかった、と言っていました。今学期は1年生はリクルーティングで大忙しですが、それが片付いたら毎週旅行に出ようという算段のようです。逆に、日中を学校以外のことに使いたいので夜のパートタイム向けの授業にだけ出るという人もいます。

このように、シカゴは学生にかなりの自由があるため、新入生は、初学期から「今学期は何を履修しようか」ひいては「MBAの二年間で何に時間を割こうか」と頭を悩ませます。学校側もそれをわかっていて、自由を使い切れる自主性を持った人を選んでいる印象があり、結果として「各人がやりたいこと追求する」というシカゴのカルチャーに結びついているようです。