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Chicago Approach
Chicago Booth のAcademic 面での特徴は、The Chicago Approach と言われる「厳格なディシプリンに基づいた教育(”Our rigorous, discipline-based approach to business education”)」だと思います。ディシプリンという言葉が訳しにくいのですが、「アカデミックな研究に基づいた理論やフレームワークを理解し、それらの限界も知った上で、ファクトに基づいて議論をするのが大好き」というイメージです。
例えば、 ミクロ経済学の授業で、ある教授が「実際のケースをもっと取り上げて欲しい」という学生からの要望に対して次のように答えていました。
「ここは(授業が100%ケースで有名な)ハーバードではありません。いくらケースに取り組んでも、ケースと同じ事例に現実でぶつかることはありません。Boothは、”General Idea”の教育に重きを置いています。なぜならば、基本的な考え方を知っていればどのような問題に対しても応用できると考えているからです。それが、BoothではMicroeconomicsが必修になっている理由です。Microeconomicsの基本的な考え方は、MBAの他の授業を学ぶ上だけではなく、実社会に戻ってからも必ず役に立ちます」
この授業は基礎のミクロ経済学だったので、本当に教授が授業で説明していたグラフや関数が実社会で直接役に立つかは別として(笑)、この説明は大学が考えているシカゴらしさを明快に表していると思います(もちろんケースにはケースの良さがあり、シカゴにもケース中心の授業は多くあります、念のため)。
私はバックグラウンドが金融のため、このシカゴらしさに対する共感が人一倍強いのかもしれません。金融では、日々の仕事はルーチンでもある程度できますが、本当に難しい問題や経験のない問題に対応する時は、どれだけ金融の本質を理解しており、理論から紐解いて自分の頭で考えることがいるかで、対応の深さとスピードが決まってくると思っています。学校が提供してくれる様々なアイディアを卒業後も使えるようにしっかりと自分のモノにするにはもちろん努力が必要ですが、シカゴの優秀な教授陣はふんだんに学ぶ機会を用意してくれます。
シカゴらしさが出ているソフトスキルの授業の例として、先学期はManaging in Organizationsという授業で、人が環境からどのような影響を受けるのかを学びました。授業の進め方は、ケースあり、クラスメイトとの模擬交渉あり、と工夫がこらされているのですが、授業の主眼は社会心理学の知見に基づき人間が陥りやすいバイアスやクセを学び、それを自分の経験に当てはめるとどのようインプリケーションがあるかひたすら考える、というものです。「職場で」人はどう振る舞うか、ではなく、「そもそも」人はどんな落とし穴にはまりやすいか、というところから始まるので、幼児を対象に行われた心理実験のビデオを見たりもして、社会心理学のコンセプトを理解していきます。最初は半信半疑でしたが、例えば授業を通じて”Confirmation Bias”という概念を理解した結果、「あ、自分は今このバイアスに陥っているかも」と自分を少し客観的に見られるようになり、終わってみると今後に役立つ授業だったと思います。この授業のアプローチは、社会心理学の”General Idea”を徹底的に学んで仕事に生かしましょうという発想で、シカゴらしいと言えるかもしれません。
なお、本ページは2013年1月9日 本サイトブログ記事より引用し一部改変しています。