ChatGPTとMBA

Class of 2024(1年生)のTです。

みなさんはChatGPTを使っていますでしょうか?

最近、ChatGPTを含む生成AI(Generative AI)と呼ばれる分野に夢中になっていまして、これをメインテーマに残りのMBAを過ごそうと考えています。このブログ記事では、ここまで約半年間の学校生活を生成AIをテーマに振り返ってみようと思います。

1. 生成AIとChatGPT

生成AI(Generative AI)というのは文字・画像・動画などを創作ができるAIで、その代表例が、今話題になっているChatGPTというOpenAI社が開発した万能チャットです。何が凄いかについては、ChatGPTを触ってみるのが一番ですが、技術面にも興味がある方はこの辺を読んでみるといいと思います。

https://note.com/kajiken0630/n/n8a1c33271280?fbclid=IwAR3f9ywyIr1cJWvw9Gq4z8nRQiorAHnOoTZn3hOcoiQMJcEAK1ugKEbycGY

MBAの周りの学生を見ていると、プログラミングのサポート、文章・英語の校正、アイデアの壁打ち相手などの使い方をしている人が多く、かなり浸透しています。余談ですが、宿題でChatGPTを使うのは基本的に禁止されているのですが、「ChatGPTを宿題で使うことを推奨する(ただしどう使ったかは明記)」というポリシーの授業もあり、AI分野を専門する教授は、活用に積極的な印象です。

2. なぜ生成AIに興味を持ったか

もともと日系の金融機関でフィンテック関連の新規事業開発を6年ほどやっており、AI技術を使ったプロダクトのPMなどもしておりました。仕事でAIを扱う中で、一度は変化が起こっている中心に飛び込んでみたくなり、また技術面でも一度学び直しをしたいと考えていました。当初データサイエンスのプログラムなども検討していたのですが、やや内容・コミュニティが専門的になりすぎる感覚があり、最終的にMBAにし、プログラムがフレキシブルで学びたいことを自由に学べるChicago Boothを選びました。

一方で、入学後にインターンを探し始める中で、AIといっても、クレジットスコアリングから自動運転まで、あまりにも幅が広いことに改めて気づきました。そこで冬休みを利用してNeurIPSというAI分野の学会に参加したのですが、生成AIのコアにあたるTransformerという技術一色で、それに対して何千という研究者が日々問題解決に取り組んでいるという現実を目の当たりしました。折しもNeurIPSに合わせてChatGPTがリリースされ、明らかにドッグイヤーに突入しており、自分が過去経験したフィンテックブームとも比べ物にならない規模の「何かとんでもないことが起こっている」という感覚で、これしかないと思った経緯です。

3. 生成AI関連の活動

Chicago BoothにはPolsky Center(イノベーションを支援する組織)が主催するNew Venture Challengeというアイデアのピッチコンテストがあります。主に2年生が応募しているのですが、同級生+同級生の知り合いのエンジニアの合計7名でチームを組んで生成AI分野のアイデアで応募することにしました。結果的にNew Venture Challenge自体の選考には漏れてしまったのですが、Polsky Centerの別のプログラムに合格してプロジェクトを継続しています。MBA的には少し珍しい全員コードが書けるというチームなのですが、自分も毎日ひたすらコードを書いていて、何かしらの形で公開もできればと思っています。

プロジェクト以外では、Booth AI Groupのクラブの運営をしています。活動内容ですが、例えば来月にJ.P. Morgan AI Researchを招いてイベントを実施します。Center for Applied Artificial Intelligence、Data Science Instituteなど学内でもAI研究を促進するための組織がいくつかあり、教授などとネットワーキングをしつつ、興味分野であるAIの倫理・安全性などのイベントを開いていければと思っています。

4. 授業

Chicago Boothのカリキュラムは必修の代替、選択科目、他学部聴講などが非常にフレキシブルなのが特徴です。生成AIというテーマに沿って、少し紹介したいと思います。

(1) 冬学期の授業(MBA)

生成AIの本質を見極める意味でも、世の中がパラダイムシフトを迎えているような局面について考える時間を増やしたいと思い、冬学期はイノベーション史、気候変動、フィンテック、競争戦略の授業を履修しました。というのも、生成AIに惹かれた理由の一つが、色々な意味でパラダイムシフトを起こしているからで、例えば、従来のAIでは自社固有のビッグデータを蓄積してモデルを開発するのが中心だったのに対し、生成AIではOpenAIなどが開発する巨大な汎用的なモデルを自社の用途にうまく転用していくことが重要になってきています。

印象的だった話としては、例えばイノベーション史(Business in Historical Perspective)の授業で、Body of knowledge(体系的な知識)とTinkering(実験的な創意工夫)の二つがあるという議論があります。19世紀の産業革命期には体系的な知識を必ずしも持たない野心的な個人発明家によるTikeringが大きな役割を果たしていたとのことでした(例:Charles Goodyearは化学の素人だったが、試行錯誤の末、ゴムの加硫法を発明)。なぜこれが生成AIと関係していると感じたかというと、この分野の全体的な傾向として「試行錯誤でやってみたらうまくいくが、なぜそれがうまく動いているのか不明」といった中で物事が進んでいるからです。特にChatGPTのような言語モデルの振る舞いは試行錯誤を通じてしかわからない部分が多く、モデルの活用においては裾野が広い個人・企業のTinkeringを通じてブレークスルーを起こしていく局面にあるように思いますし、またこの分野で出遅れ気味の日本にも挽回のチャンスがあるかもしれません。

MBAの授業内容に何か正解を求めると期待外れに終わることもあるかもしれませんが、自分の興味の軸さえあれば、重要なインスピレーションを確実に与えてくれるように感じています。興味の探索に時間を使いたい1年目からこういった授業をとれるのは非常にありがたいですし、毎学期の履修登録を通じて自分が次の学期やるべきことを明確にする、というのもフレキシビリティのメリットとして感じています。ちなみにイノベーション史は必修のミクロ経済の代替科目で、Boothでは必修とされる科目であってもかなりフレキシブルに振り替えられます。

(2) 春学期の授業(他学部)

春学期はMBAの授業に加え、コンピューターサイエンスの大学院のセミナークラス2つを受講しています。一つはSelf-Supervised Learning(自己教師あり学習)という生成AIの背景になっている技術について扱うもので、もう一つはHuman-Centered Machine LearningというAIの安全性・倫理や人間とAIの協働(Copilot・Human-in-the-loop)について扱うクラスです。ちなみに担当教授の許可さえあれば、シカゴ大学の全学部のどのクラスでも受講でき、時期の縛りもありません。

技術的なキャッチアップも留学の一つの目的でしたが、最新の論文を読んで教授やその分野を専攻している学生などと議論する機会が得られるのは非常に貴重な経験です。最終課題のリサーチペーパーは、(過去に出題された)MBAの課題を講義スライド・ケースの情報に基づいて解くプログラムを開発して、性能を評価するというテーマで教授にアドバイスを受けながら書いています(と、書くとやや大袈裟ですが、要はChatGPTにうまく問題を解かせる指示方法を見つける、みたいなことをやっています)。生成AIの応用の観点で眺めると、MBAの課題はビジネスの箱庭的な要素があり、AIで現実の問題解決を行なっていくにあたっての橋渡し的な目標として非常に興味深いです。また、ビジネスをサイエンスとして捉え、理論・フレームワークを重視するChicago ApproachはAIを活用した意思決定に非常にフィットしているようにも感じています。

5. シカゴ大学のイベント

MBAに限らず大学では毎週のようにAI関係のイベントがあり、今週はアルゴリズムの政策への応用について公共政策大学院のJens Ludwig教授によるランチセッションがありました。「自分の30年の研究者キャリアの中で因果推論、行動経済学が2大革命だったが、生成AIは間違いなく3つ目の革命になるだろう」とのことでした。 また今日は、OBの方のご厚意で、Chicago Booth主催のManagement Conferenceというイベントに参加するチャンスがあり、Keynote ConversationではなんとMicrosoftのSatya Nadella CEO(BoothのAlumni)が登場し、AIの未来についても言及がありました。印象的だった話としては、「今後30年を通じて地球上の80億人の生活レベルが劇的に向上するだろうし、それは間違いなくAI+他の何か(気候変動、量子コンピューター、AR/VR, etc)によって達成されるだろう」というものでした。今後、生成AIが他の領域と相互に影響しながら、想像もつかない形で社会にインパクトを与えていくのが楽しみですし、冬学期に履修していた気候変動などの授業も、もしかしたら何かしらの形で生きるのかもしれないと感じました。

少し長くなりましたが、2年間でAIをいろんな角度から突き詰めたいという少し変わったモチベーションでMBAに来たのですが、Chicago Booth MBAのプログラムの最大の特徴であるカリキュラムのflexibilityのおかげで、充実した日々を送れています。何か深掘りしたいテーマがある方は、Chicago Boothがオススメです!