Chicago Boothのアントレ教育について
2年生のKSです。2年間の締めくくりに何を書こうかと考えたのですが、アプリカントの方からの質問で一番多いにも関わらずブログで余り触れられていないアントレネタについて書こうと思います。始めに断っておくと、私は実際の起業経験もなく、今後も(少なくとも当面は)起業をする予定も無いので、飽くまでMBA生としてのアントレ体験、という点に絞った話になります。アプリカントの方々の多くも、実際に起業する、というよりはMBAで起業について一通り経験してみたい、という感じだと思いますので、参考になれば幸いです。
アントレという観点からのChicago Booth
日本では、「Chicago=Finance」というイメージが定着しているかもしれませんが、FTでも特集されているように、アメリカ国内ではChicagoのEntrepreneurship Educationはかなり注目されています。実際、殆どの学生がEntrepreneurshipをConcentrationに入れていますし(Financeについで二番目に多い)、入学当初は、起業経験がある同級生、卒業後起業した(する)同級生が予想以上に多かったことに驚いた記憶があります。
どこのビジネススクールもアントレ教育に力を入れているのですが、Chicagoの特長は何といっても、a)(PE、VC)キャピタリストとの距離の近さ、 b) Chicagoという立地を活かしたExperiential Learning 、c) 授業のフレキシビリティー×クオリティー、d) New Venture Challenge という4点にあると思います。
a) キャピタリストとの距離
The Carlyle Group やBlackstoneなどの有力ファンドがChicago Alumniによって設立されているように、過去数十年に渡り多くのキャピタリストを輩出しており、またLaSalle Investmentのようにシカゴベースのファンドも少なくないため、投資家と話す機会が豊富にあります。私自身も、授業やビジネスコンペで直接起業アイデアをぶつけ、フィードバック(という名の言葉攻め)を受けたことが何度かありますが、こうした経験はBoothにこなければ(実務でも)難しかったと思います。また、教授陣にも、投資家、起業家出身が少なくなく、理論だけでなく起業の泥臭い部分(失敗経験やリスクなど)を聞けるのもBoothならではだと思います。
b) Chicagoという立地を活かしたExperiental Learning
日本ではあまり知られていないですが、ChicagoはGDP世界第4位の都市であり、金融だけでなく起業も活発です。こうした立地を活かし、ラボ系 の授業では、ChicagoベースのStartupをクライアントにコンサルティングの実地経験を積むことも可能です。また、Hyde Park Angelというエンジェル投資家とシカゴ大学がジョイントで運営しているファンドもあり、インターンをすることもできます(かなりの倍率ですが)。授業以外にもCoffee Chatなどのでアルムナイやシカゴベースの起業家と話すことや、教授や友人の紹介でインタビューに行ったり、と貴重な経験ができました。普段忙しい起業家にふらっと話を聞いたりビジットできるのは、勿論シカゴ大学の知名度やネットワーキングもありますが、やはり徒歩圏内にスタートアップがある、という立地のベネフィットが大きいと思います。
c) 授業のフレキシビリティー×クオリティー
Chicago Boothの素晴らしさは幾つもありますが、授業は(アントレ系統に限らず)本当に素晴らしいです。正直日本の学部時代の授業は殆ど一科目も記憶にないですが、Chicagoの授業は一回一回が本当に楽しみでした。結局、色々な科目を取りすぎて卒業単位を大幅にオーバーしてしまいましたが、それでも学び足りないくらい素晴らしい科目が詰まっています。
アントレに絞ってみても、Building The New Venture(what’s your story? の著者であるCraigも教授陣の一人), New Venture Strategy(超人気授業)、Private Equity & Entrepreneurial Finance (Kaplan)など仮想ビジネスやケースを使ってアントレの全体感を学ぶコース、前述のように実地でコンサルをするLab、Entrepreneurial Selling(起業家のセールスに重点を絞ったコース、コールドコールなどの仕方まで学ぶ)、The Internet Startup(アルムナイであるGrouponファウンダーによってファシリテートされる)などの各論、が多く提供されており、1年生の1学期から興味に合わせ自由に選択できます。(余談ですが、Chicagoは、実務とアカデミックが融合した数少ないビジネススクールでもあり、Tax Strategy(起業やM&Aにおけるタックススキームを学ぶ、恐らく世界のMBAで唯一のTax にフォーカスした授業)のようなマニアックな授業が毎回満席だったことには、軽いショックを覚えました)
d) New Venture Challenge
コンペティションも盛んでWhiteboard Challengeのようにアイディアベースでのコンペティション、Case Challengeのような課題解決型のコンペなど様々ですが、やはりChicago Boothの看板はNew Venture Challengeだと思います。アントレ教育の世界で最も有名な教授といっても過言ではないKaplan によって運営されるビジネスコンペは、既に20年近く開催されており、これまで65社が総額$200M近くのFundingを受けています。他のコンペは準備期間1週間から1ヶ月程度のものが殆どですが、NVCは書類審査に始まり、最終プレゼンまでで半年近くかかり、そのため2年間丸まるかけて参加するチームも少なくありません。2次審査まで通過するとKaplanとRudnickのファシリテートによる授業に参加できますが、授業では毎回20名近い審査員(殆どが起業経験者か投資家)が各チームのプレゼンに対して質問を浴びせ続けられます。コンペの優勝の有無はある意味では目的ではなく、こうした投資家とのやりとりからの学び、ネットワーキング、Trial & Errorの繰り返し、プレッシャー(教授も投資家も真剣なので、サボると容赦ない)は、他の授業では経験できない部分です。2次審査まで通過するのも結構な倍率で(30/100チーム)、このレベルになると殆どのチームが実際に起業を考えており、他のチームから受ける刺激も強烈です。「(理想系を描いた)ピクチャーではなく、客と金の匂いのするリアルなビジネス」をモットーにしているコンペだけあって、カスタマーを開拓したり、パートナーを見つける、という実務プロセスが重要視されますが、教授や投資家に人を紹介してもらうこともままあり、意外な業界の大物に出会える可能性もあります。こうした経験は、さすがに他の授業では味会うことが難しい部分であり、参加して本当に良かったと思います。
最後に
最後に2年間の留学の締めくくりをして終わろうと思います。
今にして思うと、2年前Boothに来た時は、MBAで何かが変わる、という淡い期待を抱いていたような気がします。でも、2年間という時間、キャリアを中断するリスク、2千万円近い出費、は本当に莫大な投資であり、MBAがその投資に見合う価値かどうか、ということについては良く考える必要があると思います。実際、MBA取得者の数は年々増え続け、Business Educationを提供する機関も増え続けている(ビジネススクールだけでなく)中、MBAをレジュメに載せておくこと自体の価値は下がり続けていると思いますし、MBAを取得したからといって何かができるようになる訳でもないし、ましてや成功を約束するものでは無いと思います。
しかし、MBAに投資した価値があったかどうか、と言われれば、答えはYesだと思います。2年間毎日が刺激に溢れいた、というのは中々ないことだと思います。今振り返ってみても、無駄にした日は一日たりともなかった気がします。中でも、スタディーグループのメンバーと本気で喧嘩してしまったことは(今となっては)良い思い出です。本音で青臭いことを言ったり、価値観をぶつけあうのは、ヒエラルキーのしっかりしている職場では中々難しいと思います。授業では、気づけばクラスで一人だけ反対意見で、恥ずかしさで意見を撤回してしまったことがありましたが、教授に”(せっかくのリーダシップの機会を自分から取り下げてしまったことに対して)Disappointed”だと言われたのは、(間違っていても間違っていなくても)自分の主張を伝えることの重要さを認識させてくれました。そして、2年前は無意識のうちに国籍や言語を気にしながら相手と接していた自分が、相手の国籍を問わず、胸を開いて飛び込んでいけるようになったのも、これから国際社会で結果をだしていくための大きな財産になったと思います。空回りしがちな私の情熱(?)に答え続けてくれたChicago Boothの充実した教授陣、Harry DavisやStacey Koleを始めとするDean達、そして愛すべきクラスメート達に感謝したいと思います。